
次の改定まで残り1年未満、今だからこそ「振り返り」が必要
次回、令和8年度の診療報酬改定まで、残り1年を切りました。診療報酬は2年ごとに見直される制度ですが、その影響は大きく、特に在宅医療を担う医療機関にとっては経営基盤を左右するほどのインパクトを持ちます。
「次の診療報酬改定に備える」ためには、まず足元を固めることが不可欠です。つまり、令和6年度改定で導入・見直しされた制度が、自院の運用にきちんと反映されているかを点検することです。経営層が「現行制度を正しく理解し、対応状況を把握する」ことが、診療報酬改定を追い風に変える第一歩になります。
本稿では、厚生労働省の通知・解釈資料(令和6年4月・6月通知ほか)をもとに、在宅医療に関する算定制度の振り返りと施設基準の見直し、さらに年度途中で追加・明確化された算定項目や解釈を整理します。
※本稿で整理した内容はすべて、厚生労働省「令和6年度診療報酬改定説明資料(在宅医療)」「診療報酬改定関連通知」「疑義解釈資料」(2024年4月~11月)に基づいています。
目次
令和6年度診療報酬改定における「経営の柱」に関する算定制度の見直し
01令和6年度診療報酬改定における「経営の柱」に関する算定制度の見直し
令和6年度診療報酬改定は、在宅医療の主要な収益源や人材確保に直結する項目が大きく動きました。経営判断に関わる重要な見直しを確認しましょう。
- 医療従事者の賃上げを目的とした評価(ベースアップ評価料)
今回の改定の最大のテーマである看護職員、薬剤師等の賃金改善を目的とした評価が新設されました。
・(新)外来・在宅ベースアップ評価料が新設。(厚労省令和6年4月通知)
・算定には賃上げ計画の策定・届出が必須。
👉この評価料の算定は、今後の優秀な人材確保に直結します。算定可否の判断と、実際に賃金改善計画が実行され、その証跡が残されているかを経営層が確認する必要があります。「現場任せ」にせず、自院の人件費戦略として位置づけましょう。 - 在宅時医学総合管理料(在総管)の見直し
在宅医療の中核となる在宅時医学総合管理料(在総管)の要件が整理・厳格化されました。
・訪問回数や診療計画の作成義務が明確化。特に訪問看護師への指示書の重要性が強調。
・他院との連携がある場合の算定ルールを整理。
・患者の状態像に応じた適切な区分算定を求める方向性。
👉在総管は在宅診療の収益の柱ですが、要件逸脱による算定不可・返戻リスクも大きい項目です。「計画書・指示書の作成フローが形骸化していないか」「訪問頻度や記録が要件を満たしているか」を再確認することが必要です。 - ターミナルケア加算の要件整理と対象拡大
看取りを支える体制と評価が厳格化・拡充されました。
・医師・看護師の関与内容、看取りに至るまでの記録体制の要件がより厳格化(「誰が、いつ、どのように関わったか」の記録が必須)。
・がん以外の疾患(心疾患、呼吸器疾患、難病等)に対する算定条件が整理され、実質的に対象範囲が拡大。
👉看取りを支える体制はクリニックの社会的評価にも直結します。算定ルール遵守はもちろん、拡大された対象疾患に対応できるよう、多職種連携を強化し、体制を整えているかが問われます。
02算定の土台となる施設基準とDX推進の見直し
在宅医療の根幹となる施設基準についても、令和6年度改定で重要な変更がありました。
- 医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の評価
医療情報の有効活用が評価され、従来の紙運用からの移行が本格的に促されています。
・(新)在宅医療DX情報活用加算が新設され、マイナ保険証を利用した薬剤情報等の診療情報の取得を評価。
・電子処方箋や電子カルテ情報共有サービスの導入に向けた体制整備が求められる方向性。
👉DXへの対応は、単なる加算の取得に留まらず、業務効率化と情報セキュリティの要となります。「情報共有ツールの導入状況」「マイナ保険証利用の推進状況」を戦略的にチェックし、次の改定に向けた投資と捉える必要があります。 - 在宅療養支援診療所(在支診)の24時間対応体制の明確化
在支診に求められる24時間対応要件が明文化されました。
・単なる名目上の連絡体制ではなく、実際に対応可能であること、特に連携先の明確化など、エビデンス整備が求められています。
👉施設基準を満たしていないと在総管等の算定自体ができません。「自院が基準を確実に満たしているか」「実地指導で示せる証跡が整備されているか」を今の段階で点検しておく必要があります。
03令和6年度内に追加・明確化された算定項目・解釈への対応
改定直後に加え、令和6年度中に厚労省から疑義解釈(Q&A)が複数回出されています。これらは、実地指導で厳しく問われる「生きたルール」です。
・訪問看護指示書の記載要件:記載漏れがある場合は算定できないこと、特に有効期間や特定行為の指示など、重要項目が改めて明確化。
・在総管の算定に関する補足:複数医療機関が関与する場合の算定ルールや、医師訪問頻度の解釈について補足通知あり。
👉年度途中の疑義解釈は見落とされがちですが、運用に直結します。「担当者任せ」ではなく、疑義解釈が反映された運用ルールになっているか、算定状況を定期的にレビューする体制を作ることが重要です。
振り返りこそ、次の診療報酬改定への準備の第一歩
令和6年度改定から既に1年が経ち、制度は“当たり前”として定着しつつあります。しかし、次の改定を控えた今こそ、現行制度の点検と運用の見直しを行うことが、経営にあたり重要な投資と考えます。
- 賃上げ・DXへの対応
競争力を高めるための最優先投資項目として進捗をチェック。 - 在総管・ターミナルケア加算の要件遵守状況
収益の根幹に関わるルールの遵守を徹底。 - 施設基準を満たす証跡の整備
算定の土台が崩れないよう、文書管理を徹底。 - 疑義解釈を反映した運用ルールの徹底
最新のルールに基づいた現場運用を確認。
このような項目を経営層が主体的にチェックしておけば、令和8年度診療報酬改定に向けて慌てることなく対応できるのではないでしょうか。診療報酬改定は避けられない外部環境変化ですが、準備次第で様々なリスクを回避し、むしろ自院の成長に結びつけることができるのです。
このような振り返りを医療機関の経営会議等で定期的に確認することが、次の診療報酬改定準備の第一歩になると考えます。
本コラムが貴院の振り返りの助力となれれば幸いです。
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